『コラム』
- ジャパンライム株式会社
- 2021/09/01
ただキツイだけではない ハンドボールのクリエイティブな練習メニュー
明星大学男子ハンドボール部、U-21男子ハンドボール日本代表で監督を兼任する植松伸之介さんの練習と、練習に対する考え方を、本人のお話を交えながら紹介します。
「ボールゲームの本質」を捉える
植松さんは大学卒業後にドイツに渡り、ブンデスリーガ1部でプレー。さらにはドイツのクラブで監督も務めました。
ボールゲームの本場ヨーロッパでの経験を日本に持ち帰り、それをアレンジしながらコーチングを実践しています。
コーチングのコンセプトのひとつが【個を伸ばす】こと。
「ひとつのことだけやらせたら、日本の選手は優れています。でも、世界で戦うには、同時進行で複数の動きができないと勝負になりません。より早く、より正確な判断も必要になります。」
日本人は技術力の高さを評価されることが多く、実際に高い技術を持っている選手が多いのも事実です。
ただ、相手がいて次々と状況が変わるゲームのなかで、【判断】を交えながら様々な技術を同時に発揮することが大切であり、【ボールゲームの本質】はここにあると植松さんは考えています。
この考えが反映された練習を簡単に紹介します。
写真のような4カ所のパス練習でも、ただパスを回すのではなく、判断の要素を入れて行います。
パスの方向は自由、パスを出した後の移動する場所も自由です。
ただ、何も考えないで回していると、4カ所のどこかに人が固まり、誰もいない場所ができてきます。
あえて自由度を持たせることで状況の変化を促し、それに対応するにはどうすればいいいか。周りを見て考えながら取り組ませることが練習のポイントです。
現代の子どもたちを伸ばす「コーディネーション能力」
小学生を対象とした講習会で講師を務めることもあり、幅広いカテゴリーのコーチングに関わる植松さんが感じていることは、コーディネーション能力の大切さです。
コーディネーション能力とは、簡単にいうと【体を上手に動かす能力】です。
「昔であれば自然や公園で遊びながら身につけることができましたが、今はそれが難しい時代になっています。あえて練習にコーディネーショントレーニングを取り入れることで、あらゆるプレーにつながる能力の習得を目指しています。実際のハンドボールの動きとは異なりますが、実は裏で直結している。というイメージです。」
時代の変化とともに遊び方も変わっていく。子どもたちの環境にもアンテナを張ることも大切になります。
この他にもコーディネーショントレーニングの効果を見出しています。
「子どもたちは基本的に毎日授業が終わってから練習をします。授業で疲れた頭をクリアにしてから練習をしたいので、遊び感覚で、楽しみながら取り組めるコーディネーショントレーニングを、まずウォーミングアップとして行っています。」
このように、子どもたちの生活に合わせて練習メニューを考えることもコーチの腕の見せどころといえるでしょう。
実際のコーディネーショントレーニング
植松さんがチームで実際に行っているコーディネーショントレーニングを2つ紹介します。
ひとつめは、「サークルパス」です。
ただ隣にパスを回すだけではなく、リズムを変えたり、投げ方を変えたり、ルールにバリエーションをもたせながら状況を変化させ、それに合わせて体を動かしていきます。全員でリズムを合わせることも大切です。
これは、間合いや駆け引きを覚えるトレーニングです。
1対1で、手押し相撲や、足踏みゲームを行います。サークルパスと同様にバリエーションをもたせ、次々と変化させていきます。
勝つためにどうすればいいか。
これを自ら考え、様々な動きをすることで体の動かし方や、判断力を自然と身につけていくことを目的とします。
練習をルーティーン化しない
植松さんがコーチとしてこだわっていることは、【練習をルーティーン化しない】ことです。「授業中に、今日はまたあの練習をやるのか、と思わせないようにしています。
最終的な目的は同じでも、アプローチの方法を変化させ、今日は何をやるの? 次は何をやるの? という雰囲気づくりを大切にしています。」
子供たちが飽きることなく、毎日興味を持ってスポーツを楽しむことが、上達への近道。 練習を楽しむ中で、選手と指導者がともに成長できるチームを目指してみてはいかがでしょうか。
最後に、コーチングにかかわる皆様へのメッセージを紹介します。
「当然のことながら、【絶対に勝てる】【選手を劇的に変化させる】トレーニングメソッドに私はまだ出会ったことがありません。
しかし、日々の“練習”が選手にとってただキツく辛いものではなく、コーチのアイデア次第でよりクリエイティブに、且つ競技を本質的に楽しむことができる有意義な時間に変えることができます。
日々トレーニングを重ねている選手たちは常に成長しています。
今回紹介したメニューをトレーニング立案の一助としていただき、是非コーチのアイデアで、対象となる選手に適したものへどんどんアレンジしていただきたいと思います。」