『コラム』
- Citta
- 2021/12/29
空手家 井上龍星さん【Cittaインタビュー】
静岡県沼津市で歴史のある空手道場であり、日本でも有数の道場生をかかえる「養正館」で指導されている井上龍星さん。
昨年まで国体選手としてご活躍され、世界大会にも出場された経歴をお持ちです。
先月は世界選手権があり、先日も全日本空手道選手権がテレビでも放映されていましたよね!
今回は井上龍星さんに空手競技とは何か?空手の魅力、今後の空手競技の普及に関してお話を伺いました。
まだ知られていない空手
ーー東京五輪でも注目された空手ですが、指導者の立場としてどのような目線で見ていらっしゃいましたか?
【井上龍星さん(以下敬称略)】指導者目線で言うと、世界の競技レベルが今どのような状況なのかを確認する目線でみていました。
空手はルール改正が多く、今回の五輪は一般の方が見るという事で、分かりやすいように変わっていたんです。
そのルールの中でどれだけ主導権を握るかが鍵になるんですよね。
今回、形の評価基準がガラッと変わっていて、その基準でいかに評価されるかで勝敗が大きく変わりました。
従来のルールだと勝つ選手が上位に入らなかったのも、今回のルール改正があった事が大きく影響していましたね。
競技者目線でいうと、納得いく勝敗にはならなかった試合が多かったですね。
ーーへぇ~!そうだったんですね!
【井上】そうですね。なんかパッとしなかったですね。素人の方でも分かる明確な評価にすれば良かったなと感じました。
我々指導者、道場経営者としては、五輪を見て競技を始めたいという方が増えて欲しいと、今回の五輪効果をとても期待していたのですが、五輪が終わってからもあまりそういった声を聞かないのが事実ですね。
養正館では子供教育に視点を置いた道場なので、体験者も多いのですが、五輪を見てやりたいと思ったという体験者はほとんどありませんでしたね。
もったいなかったな~と思いました。
ーー井上さんが空手を始められたきっかけは何ですか?
【井上】母の「武士道」に対する思いと、先に空手を習っていた兄の影響です。
昔は泣き虫でしたが、空手を通して心が強くなっていきましたね。
ーー身一つであれだけの表現、迫力が出せる事に驚きました。空手競技について詳しく教えていただけますか?
【井上】空手は沖縄発祥の日本武道で、元々は“一人でこっそりやる”ようなものとしてスタートしました。
また、空手には伝書はなく、口伝と実技のみで技が伝授されました。
「形」という一人で演舞するところから、実践するかたちに変わっていったのが空手です。
武道の一面と、スポーツの一面があり、しつけや礼儀という武道面、世界大会があるのでスポーツという一面もあります。
教育現場で武道が必修科目ですが、柔道、剣道に続く普及率があるんですよ!
空手は「形」と「組手」に分かれます。
「形」は相手を想像して一人で演舞するものです。
判定方法が2つあり、1つは赤と青のフラックで優劣を決める方法ともう1つは点数採点で評価をする方法です。
点数評価基準がややこしく、流派による特徴が違うため、採点者の固定観念によって、大きく勝敗が変わってしまう懸念点があります。
「組手」は剣道やフェンシングのような、対人で戦いポイントを取り合うものです。
8ポイント差が付くもしくは、制限時間内に多くポイントを取った方が勝つ仕組みです。それぞれ攻撃部位によって細かく点数もわかれています。
組手は基本的には“寸止め”です。教育現場に採用されているものは、「伝統派空手」で国体競技やインターハイ競技に採用されています。
空手には様々な団体が存在していますが、世界空手連盟で認められているのは「伝統派空手」です。こういった違いなど一般の方々にも認知いただかないと、空手の普及や五輪競技で続けていくことは難しいですね。
余談ですが・・・以前、オリンピック競技の紹介としてテレビに出演しましたよ!
ーー空手競技の魅力、面白さはどのようなところにありますか?
【井上】競い方が違う2種類の競技が存在し、自分の特性に合った選択ができるというところですね。
ーーなるほど!それぞれどんな特性ですか?
【井上】「組手」は相手との攻防をするので、活発な子やアグレッシブな事が好きな方向けと思います。
「形」は一人で演舞するので、シャイな方はなかなかやりにくいものですね。多くの方に見られておこなうものなので、なかなかの精神力がないと難しい競技です。
空手競技者の3分の1程度は女性ですが、その半分は形をされている傾向があります。
攻防が苦手という方にもできる事も自分の特性にあって選択ができるいいところですね!
養正館では自主性を大事にしているので、生徒のやりたい方をやらせるようにしています。
競技全体的には組手競技が多いです。中~大学では団体戦がメインで、階級もあるので、その部分で競技者が多い傾向です。
ーー競技人口に対して、競技、生涯空手それぞれどのような割合なのでしょうか。
【井上】日本では200万人・世界では1億2000万人以上もの愛好者がいるといわれています。世界的にみると野球の人口より多いんですよ!
どこまでを競技とするかにもよりますが、生涯空手が多いかなと思います。
全国大会、世界大会を目指す人の割合は全体の2.3割といったところですね。
生涯空手では70代の方でもされていて、指導者になると生涯亡くなるまで続けてらっしゃる方もいますね。
ーーなるほど!空手を通してどんなことが養われますか?
【井上】競技的には体幹・瞬発・反射といった面が鍛えられ、生涯空手としては、呼吸・下半身強化・姿勢改善に繋がっていますね!
海外普及への架け橋に
ーー海外では野球人口より多いんですね!その理由は何だと思いますか?
【井上】どうですかね~。我々が異文化に対して興味がある様に、海外の方も日本の武士道“サムライ”のイメージが強いと思います。
ヨーロッパの方はかなり武道好きなようで、柔道、剣道と共に空手と共に空手も普及されています。
おそらく武道に対する憧れから空手普及に繋がったのではないかなと思います。
ーー空手愛好者人口が多い海外の競技者の割合を増やす為にはどのような事が必要でしょうか。
【井上】やはり、空手競技をしていると将来どのような人間になれるのか、どのような仕事に就くのか、プロになるとどのようになれるのかを明確にしないと、スポーツ面の競技者が増えないと思っています。
私の理想は、空手のプロ選手を増やしていきたいですね。
これだけ愛好者がいてもプロが一握りで、日本でもセミプロにとどまっている方が多い状況をどうにか脱していきたいと考えます。
今回の東京五輪でも、武道として優遇され空手が競技に選出されたと考えられます。
まだ正式種目になれるほど普及していない事が、次回のパリ五輪に落選してしまった理由と捉えていますね。
子どもたちに夢を与えるのがプロの競技者、プロの指導者の姿だと思います。
プロが少ない=経済的な流通が少ない=オリンピック種目としての価値がないということになってしまいますから、そこは目を背けず、今後も課題としてしっかり普及活動をしていきたいですね。
ーー空手普及の為にどういった活動をしていきたいとお考えですか?また現在実施されている事も教えてください。
【井上】競技としての空手を普及させるために、海外での指導を考えています。
そのために現在は、YouTubeやSNSで海外向けに技術の情報を発信しています。
【りゅう先生のYouTube道場】
【りゅう先生のInstagram】
ーー素晴らしいお取り組みですね!その後の反響はいかがでしょうか。
【井上】そうですね。YouTubeの登録者がかなり増えていて、開設からたった5ヶ月で1000人を超えました!
増えた理由としては、SNS投稿も海外向けにしているのでそこから繋がったのも大きいです。
コメントも海外の方からたくさんいただくようになったことや、国内からはセミナー依頼も受けました。
YouTubeを通して新たなお仕事に繋がっていますね。
空手の情報発信を定期的にされている方は日本でも5名くらいですよ!
世界でも20名いないぐらいですから、需要があったのだと思われます。
ーーそうなんですね!語学は独学ですか?
【井上】はい。独学です。子どもの頃に英会話スクールにはいっていましたが、今は自分でどうにか頑張っています。(笑)
ーー以前海外でもセミナーをされていたとの事ですが、通訳の方がいてされていたのでしょうか。
【井上】ほとんどいなかったです。笑
大学時代のハンガリー実習や2年前のスウェーデンセミナーでは、通訳無しで指導していましたね。
1回100名以上の生徒に対してでしたので、大変でした・・・。
英語の力が足りず、全てを伝えられなかったことに反省して、今はオンライン英会話で日々勉強しています。
日本の空手道を世界に発展させるために自分が出来ることを
ーー来年から中国代表コーチに就任されるとの事で素晴らしい挑戦ですね!今の心境を教えてください。
【井上】中国語が話せないので不安はあります。
ただ、空手の指導内容に関しては自信を持って挑めると思います。
日本の空手道を海外に広めていくことで、世界全体のレベルを上げたいですね。
ーー井上さんが指導者として意識する事、信念はありますか?
【井上】指導者としては、以前は私の持っている技術を全て伝えようと頑張っていましたが、指導者の勉強をする中で、ティーチングだけではダメだと、コーチングに目を向けて指導する必要性を感じました。
ある程度ティーチングをおこなって、コーチングをすることを意識しています。
私の培った技術がしっかりと伝わるよう、細分化させて指導を行うように心がけています。
ーー今後更に挑戦したい事はありますか?
【井上】空手をマイナースポーツからメジャースポーツに変えるために、国内では教育現場への導入活動、海外では空手の発展途上国や未開の地での普及活動を行いたいと考えています。
ーー例えばどの地域へと考えている場所はありますか?
【井上】アフリカを考えています。競技人口が少ない事もあるので普及をしていきたいです。
知り合いがアフリカで教育普及の活動をしていて、そこに空手を使った教育を考えていますね。
空手って簡単にできるんですよ?「形」は順番さえ覚えればどこでもできますし、グローブさえあれば「組手」もできます。
ルールさえきっちり決めていれば、怪我のリスクも少ないですし、みんなと話し合いながら練習すれば、協調性も生まれます。
もっとたくさんの人に安全な「空手」を知っていただきたいですね。
ーー国内で空手をメジャーにする為にも、描いている事はありますか?
【井上】とにかく空手とはいったい何なのかを知ってもらうことです。
教育現場に取り入れてもらうことや、自治体・企業へのアピールが必須ですね。
そのためには、学校や町の行事で空手の演武をさせてもらったり、空手と企業を結びつける活動をしていきたいです。
ーー最後に、今から運動(スポーツ)を始めようとする方へメッセージをお願いします。
【井上】スポーツの魅力は続けてみないとわからないこともあります。
その第一歩として色んなスポーツに挑戦し、自分に合ったスポーツを見つけることが大事です。
メジャースポーツのみならず、マイナースポーツにも目を向けることで、自分の可能性を広げることができると思っています。
「知る」「始める」「続ける」の手順で色んなことに挑戦し、スポーツの魅力を感じていただきたいです!
あとは、空手をもっと多くの方に知ってもらいたいですね!
今はSNSやYouTubeで見る事ができるので、そこから空手はどういうものなのかをまず知ってもらって、興味を持つところから競技者が増えていく事を願っています。
空手はどういうものなのか?も含めて私のYouTubeをみていただけたら分かるので是非ご覧ください!
りゅう先生のYouTube道場はこちら⇒「りゅう先生のYouTube道場」
PROFILE
養正館空手道場指導者 井上龍星さん
静岡名門空手道場「養正館」指導者
空手歴22年。昨年まで国体選手としても活躍し、世界大会にも出場。
現在は国内にとどまらず、海外向け競技普及の為に、海外向けにYouTubeやSNSの発信を精力的におこなっている。
来年からは中国代表チームのコーチに就任。海外レベルの底上げに尽力しながら、空手競技の世界的な普及の為に活動を続ける。