MENU

『コラム』

投稿サムネイル
ラグプラスノース
2022/06/23

低酸素トレーニングの可能性について(北海道教育大学 杉山教授インタビュー)

低酸素トレーニングの可能性について

スポーツ科学を長年研究しており、特に長距離ランナーの研究においては、北海道の第1人者であり、多くの研究実績を残されています。また、杉山先生自身がインターハイ1500m優勝をされたご経験もあり、箱根駅伝の1区で 2位という実績から、現在も陸上競技部の顧問として第一線で学生の指導にあたる一方、市民ランナーを対象とした「マラソン講座」も多く開かれています。

岩見沢教育大学には、以前から低酸素ルームが設置されており、杉山先生自身も低酸素ルーム中に入ってその効果を実感されているようです。

今回は、そんな北海道スポーツ科学研究の第一人者の杉山先生に、スポーツ選手のみならず、ダイエットにも効果的と言われている「低酸素トレーニング」について、科学的視点からお話をお聞きしました。

道内初の高地トレーニングスタジオ

ーー道内初の高地トレーニングスタジオ「RAGU+N ゚」について、率直な感想を教えて下さい

低酸素トレーニングの可能性について

【杉山喜一教授(以下省略)】まず、昔みたいに海外等の高地の山に行って練習する時代から、身近な環境において、低酸素ルームで運動出来るという事は、特に安全面という点からも重要な 事だと思います。

実際の高地では、低酸素状態で普段走り慣れない不整地でのランニングを行う中で、空気圧の変化も加わることで高山病のリスクが高まり、当然体調不良や故障のリスクも負わなければならなりません。

平地の安定的な環境で酸素濃度のみを低くした方がリスクは少なく、高地にいるような条件で安全にトレーニングを行えるという点はとても良いことだと思います。

高地トレーニングの効果

低酸素トレーニングの可能性について

ーー低酸素状態で運動する事で期待出来る効果等について教えて下さい

【杉山】低酸素状態で運動する事で期待出来る効果として、まず糖質の代謝効率が上がることで、LT※1のレベルを上げる効果が期待されます。

LT が上がるという点では長距離ランナーばかりでなく例えばサッカー選手のようにスピード持久的な体力が要求されるスポーツ選手のパフォーマンスアップに繋がります。

そしてなによりも大事なのは、低酸素トレーニングによって細胞内のミトコンドリアが元気になることで有酸素能力が向上し、疲れにくい体づくりにつながります。

このミトコンドリアが活性化すると、糖質ばかりでなく脂肪代謝も促進するため、エネルギー源を脂肪に依存しがちな長距離・マラソンにとってはとても重要なポイントになります。

また低酸素ストレスによって速筋繊維が刺激されることで、引き締まった体つくりにも貢献すると共に、細胞内での代謝が促されることで、お肌も元気になり、美容と健康促進においても注目されています。

このように低酸素の状態で様々な運動をすることは、体の細胞を活性化し、それに伴うさまざまな効果が期待されています。

低酸素環境の体の変化

ーー最近の低酸素研究を杉山先生がご存じの範囲で教えて下さい。

低酸素トレーニングの可能性について

【杉山】興味深い点として、低酸素の状態だと、食欲増進ホルモンを抑制する効果があるという事がわかってきました。これにより過食を防ぎながら、ダイエット効果をもたらします。

つまり運動効果と同時に、食欲を抑制するといった、痩せる近道になります。もちろん低酸素トレーニングの主要な効果は、持久的能力の向上といえるでしょう。

すなわち低酸素ストレスによって、われわれの体はその酸素不足を補おうとする作用が働き、酸素を必要としている部分に効率よく酸素を送ろうとします。

このような機序においては、赤血球の数やサイズあるいはヘモグロビン量等における血液の性状も変化し、心臓と呼吸器系や毛細血管系も強化されることで、取り込まれた酸素を全身に効率よく運ばれるように体が適応していきます。

低酸素トレーニングでは、成長ホルモンやコルチゾールといったいくつかのホルモンの分泌が促されるので、糖質や脂質といった代謝が促進されます。

この低酸素に適応して身体が鍛えられる背景には、ドーパミンのような脳内物質も働いて、脳や神経組織を守るための適応メカニズムがかかわっている可能性があります。

 

ただこの分野の研究については、動物実験が中心で、未だ不明な部分が多いというのが現状です。

なお低酸素ストレスに対してはそのトレーニング効果において個人差があり、体質的に不向きな選手もいます。そのような場合には、トレーニングハイ(低酸素ルームでのトレーニング)を避けて、一定時間低酸素室にいるといったリビングハイ(低酸素ルームでの滞在)をお勧めします。

また低酸素ルームでのヨガやストレッチなどの静かな運動を行う事も効果的です。

 

低酸素環境を用いたさまざまな臨床試験によって、例えば糖尿病改善や不妊治療などの効果も期待されている分野でもありますので、 今後の研究にも注目したいですね。

高地トレーニングスタジオRAGU+N°の今後

ーーRAGU+N ゚に期待したい事や新しく取り組んだ方が良い事を教えて下さい。

【杉山】ランニングの場合、同じ距離であれば通常の運動強度よりも低い負荷で、また同じ運動強度であれば通常よりも短い距離・時間で行うことができます。

距離や時間をかけずに負荷を少ない状態で運動するので、ケガの防止につながります。

 

パフォーマンスアップを狙うのあれば、普段よりも遅いペースを用いた LT 走が良いと思います。

低酸素ルームで、アジリティの強化や筋トレ・補強などのトレーニングを導入することで、成長ホルモンの分泌が促進されて、筋肉を肥大させる効果もより一層助長されるでしょう。

 

さらにこれらとランニングを組み合わせることで、脂肪をできるだけ優先的に利用するような体質改善も可能になるかもしれません。

なお低酸素トレーニングの初心者については、例えば低酸素ルームへの出入りを、一定時間繰り返し、やや慣れてきた段階で、低酸素ルームと平地環境での運動を交互に行いながら、少しずつ低酸素に対して体を順応させていくと良いでしょう。

トレーニング中は、血中酸素飽和度でトレーニング管理しながら体調管理に努めることも大切です。低酸素トレーニングに慣れてくると、貧血改善といった効果も期待されていますので、女性ランナーにもおすすめです。

 

低酸素ルームに対する身体の反応には個人差があるので、入る前に体が馴染めない方は、最初に1800mのスタジオルームから入る方法もあります。

これは初心者向けですが、最初に脳を低酸素状態に慣らしてからトレーニングを開始すると良いでしょう。逆に若いランナーは、低酸素条件に敏感ですので、体調と相談しながら積極的に低酸素トレーニングを導入しても良いかもしれません。

ただしトレーニングの効果は、週1回程度の単発的な練習ではあまり効果が望めません。できれば週2回から3回程度で、長期にわたって実施することが良いと思います。

またダイエット効果を高め、健康的な身体を作るためには、低酸素ルームでのヨガや筋トレ等さまざまな練習を組み合わせてみるのも良いでしょう。

低酸素トレーニングにおいて何より大切な事は、低酸素に順応させるために長期的なスパンでやらないと効果がないということです。低酸素トレーニングが日常のトレーニングの一部となるよう、地道に長く続けて欲しいですね。

 
低酸素トレーニングの可能性について
 

今回は北海道のランニング・マラソン界のパイオニアで岩見沢教育大学の教授でもある杉山先生に高地トレーニングについてお話を伺いました。
スポーツにおけるパフォーマンスアップはもちろん、普段スポーツをしない方や運動が苦手な方でも効果のある高地トレーニングはニュースタンダードとして日本各地で定着しつつあります。
道内初の高地トレーニングスタジオであるラグプラスノースはこれからも正しい情報を発信し続けます。

sunmed


《Citta協定団体》 (50音順)

《主なCittaパートナーズ一覧》 (50音順)

すべてのパートナーズはこちら>>