『コラム』
- ラグプラスノース
- 2022/07/03
高地トレーニングの可能性
今回は「ラグプラスノース」で行うことのできる高地トレーニングについて京都府立医科大学 人工臓器・心臓移植再生医学 五條理志教授に情報を提供していただきました。
第1回目は、現代医療への問題点の提起とそこに関わる低酸素トレーニングの現況についてです。
間欠的低酸素トレーニングの効用1
高齢化の著しい社会となり、加齢に伴う様々な疾患が社会的・経済的に大きな負荷が患者自身と家族のみならず社会全体にのしかかっています。
医療は著しい発展を見せ生物寿命の延⻑をもたらしましたが、認知症・循環器代謝疾患・運動機能低下などに対する処方箋、それに続く健康寿命の延伸には十分な成果を挙げているとは言えない状態です。
医療は曖昧な運動の効用を説くだけで、具体的なプロトコールを患者や未病の状態にある中高年の人々に示しているとも言い難い状態です。
モチベーションの持続と共に経済的にも時間的にも継続できるフィットネス環境が整っていないと思われます。
一方で、様々なスポーツの普及は著しく、トップアスリートへの高地トレーニングは一般の方々への認知度も高いものとなっています。
高地トレーニングは低気圧・低酸素の負荷がかかっていることにより、高山病に類似の症状をもたらすこともあり、常気圧で低酸素状態を作ってトレーニングを行う間欠的低酸素トレーニングが開発され、アスリートのみならずスポーツを熱心に行う一般の方々も行うようなっています。
間欠的低酸素トレーニングの効用2
間欠的低酸素トレーニングの基盤は、低酸素下で運動を行うことで、筋繊維の破壊と再生をより強力に行い、低酸素下でもエネルギーを効率良く生み出す細胞・身体を作り上げることです。
ミトコンドリアについて
その先のどうしてそんな細胞が作られるのかは、全ての細胞に存在するエネルギーの大半を作るミトコンドリアという小器官の質と活動にあります。
ミトコンドリアは酸素を受け皿として、様々な栄養素から電子を解放することでエネルギーを作っています。
低酸素に対応して、エネルギー産生を担っているタンパク質が入れ替わるという質の変化を起こします。
アスリートのためのプログラムとしては、十分な基盤であり、世界を競うトップがこぞって低酸素をトレーニングに組み入れている理由は、今わかっている機構以外にもこれから解明されていくものと考えられます。
ミトコンドリアの持つ力
加えて、単位重量当たりにすると太陽をも凌駕するエネルギー産生を行っているこの小器官は、常に自らの質を管理しています。
今の我々の細胞は、飢餓、低温、低酸素、外敵(ウイルスや細菌)といったストレスに晒されながら、生き延びて子孫を残すために進化してきましたので、これらのストレスに対応する術を、自らの品質管理に用いています。
現在、真核生物が生まれて20億年の中で、初めて飽食を含めて肉体的ストレスのない環境に晒された生物は、品質管理を発動させる機能を低下させられ、一方で還元ストレスと呼ばれる栄養過多に十分に対応する機構を細胞の中で持っていません。
多くの生活習慣病や認知症をはじめとした神経変性疾患は、品質管理が行われていない質の悪いミトコンドリアの蓄積が根底にあります。
機能不全のミトコンドリアを排除する薬剤の開発は、莫大な資金が投入されていますが、未だ開発に至っていません。
まとめ
運動や低酸素暴露・温熱といった身体的ストレスを負荷することは、この還元ストレスを一時的に解消すると共に、質の悪いミトコンドリアを排除することにつながります。
ラマダンや温泉療法・高地療法といった古くからの知恵は、現代の生物学の観点から見ると極めて妥当な身体の整え方だと考えられます。
間欠的低酸素トレーニングは、ミトコンドリア品質管理を適切な状態に誘導するという効用を有している可能性が高いと考えられます。