『コラム』
- サン・クロレラ
- 2024/04/23
アスリートフードマイスターに聞く!スポーツのための食事【レスリング編 八隅士和 選手選手】
今回、チェックするのはレスリング界で活躍する八隅士和選手(17)。
7歳のときにジュニアレスリング14冠、中学1年生で全国中学生レスリング選抜選手権大会優勝という輝かしい実績をもつ。
八隅選手のチェックは今回で3回目。
2022年6月に初の海外遠征(U17アジア選手権@キルギス:60㎏級5位)を経験し、食事の栄養管理についても課題を感じたという。
現地での食事が合わず、帰国後も体重が減ったままだったという八隅選手に対し、管理栄養士とアスリートフードマイスター1級の資格を持つ奥村(生産開発部研究開発グループ所属)は、同年7月から8カ月間の栄養サポートを通して、理想体重を維持するために重要な3つのポイントや試合当日の食事などについてアドバイスを送った。
8カ月間の栄養サポートにおける課題と変化
【アスリートフードマイスター 奥村さん(以下敬称略)】八隅選手は常時、体重65㎏をキープしていきたいとのことでした。
食事記録や体重・体脂肪率、練習メニュー、睡眠時間等をチェックしたうえで、どう理想体重に近づけ、維持していくのかについて検討しました。
サポート開始当初における課題点としては、まず、昼食や夕食はバランスよく食べられていたものの、朝練の時間が早いことに加えて、練習メニューの負荷が大きいことから、朝食や補食を摂らない日がみられたことです。
<サポート開始時の食事①>
【奥村】 次に、18時以降の補食や21時以降に夕食を摂っている日があり、夜の時間帯にエネルギーの摂取が偏っているケースがみられたことです。
夕方の適切なタイミングで補食を摂っている日もあるのですが、睡眠の質を下げないためにも夜にエネルギー摂取が偏らないことが望ましいと考えています。
<サポート開始時の食事②>
【奥村】 これらの課題についても適宜アドバイスを交えながら8カ月にわたる栄養サポートを実施し、朝練後に朝食を食べる習慣付けや、補食も内容や時間を意識して、適切なタイミングでとれるようになり、八隅選手自身の意識の変化も感じられました。
<サポート最終週の食事>
理想体重65㎏を維持するための3つのポイント
【奥村】ここからは栄養サポート期間を通して、八隅選手の理想体重である65㎏を維持すために必要なポイントを整理していきます。
レスリングは階級ごとに分かれた競技であり、試合のタイミングに合わせて体重を減らしたり増やしたりしなければなりません。
そのため、体への負担が少ない体重管理が非常に大切だと言えます。
そこで、理想とする体重を維持するための3つのポイントをお伝えします。
①レスリング練習後の朝食は「糖質+たんぱく質」を摂る!
【奥村】早朝のトレーニング後に、おにぎり、パン、サンドイッチ、麺などの糖質の多い食品を積極的に摂って、そこに肉、魚、卵、乳製品などのたんぱく質を多く含む食品をプラスして摂ることをお勧めします。
エネルギー源となる糖質を補うことは疲労回復にもつながり、プラスでたんぱく質を摂ることで筋肉の維持にも効果があります。
もし食欲が無い時は、ゼリー飲料やスポーツドリンクなど食べやすいものでも構いませんので、好みに合わせて摂ってほしいと思います。
【アドバイスを受けて改善した食事メニュー】
【写真左から:おにぎり、サンドウィッチ、やきそば、ラップサンド】
②食事量を増やすために補食を活用する!
【奥村】補食はエネルギー切れを防ぐだけでなく、筋肉に良い影響を与える食事戦略の一つでもあります。
例えば夕方に1時間以上の筋トレや練習を控えている場合、トレーニング中に空腹にならないためにも開始30分前に補食を活用するのもいいと思います。
ただし、補食は必ずしも必要というわけではありません。
お腹の具合と相談しながら、食べられる時に食べられるものを選ぶように心がけてみてください。
③食べられるときはバランスの良い食事を!
【奥村】バランスの良い食事はコンディション維持や体づくりに欠かせないものであり、主食、主菜、副菜がそろった食事を常に意識しておくことが大切です。
下の食事写真のように、エネルギー源となる糖質を主に含むご飯、筋肉をつくるたんぱく質を主に含む肉、大豆製品、体の調子を整えるビタミン、ミネラルを含む野菜が摂れる食事が理想的と言えます。
八隅選手の場合、自宅ではバランスの取れたメニューになっていました。
【自宅での夕食】
合宿期間中に体重を減らさないための補食
【奥村】八隅選手は2022年6月の海外遠征で体重を落としてしまったとのことでしたが、その後8月に実施した合宿期間中の食事記録をチェックしたところ、推定のエネルギー消費量に対してエネルギー摂取量(推定)が大きく不足していました。
合宿の練習では高負荷のトレーニングが多く食欲も落ちてしまうため、エネルギー消費量を満たせるような食事量を摂ることは難しいはずです。
実際、合宿期間中の八隅選手の活動日誌をみると「食べる量が足りない」と記録されていました。
では、合宿期間中に体重をどうキープしていくのかというと、補食を積極的に取り入れていくことが非常に重要です。
<合宿期間中の食事>
【奥村】 補食の例としては、まずは消化が良くエネルギー源となる糖質を多く含む食品が挙げられます。
カステラ、どら焼き、あんぱん、羊羹、エナジーバー、かた焼きせんべい……などです。
次にコンディションを整えるために、ビタミンCを含む果物や果物ゼリーのほか、野菜が摂れるインスタントの味噌汁や豚汁などもお勧めです。
なお今回のアドバイスを踏まえ、八隅選手は次の合宿時にインスタント味噌汁、どら焼き、羊羹、カステラ、あんぱん、焼きドーナツ、みかん寒天などを持参。
その結果、体重維持に成功されたとのことです。
今後も補食を上手に活用し、合宿期間中の体重維持につなげてほしいと思います。
減量を見据えた理想的な食事メニュー
【奥村】「試合前の減量に備え、脂肪を減らして筋肉をつけたい。
とはいえ痩せないために食べる量も確保しないといけない……」。このような悩みを抱えているアスリートも少なくないと思います。
八隅選手の場合も、「痩せないためにたくさん食べてもらおうと思うと、ハンバーグ、から揚げなどのつい油分の多い食事になってしまう。
体作りのためには高たんぱく質、低脂肪の料理が良いとわかっていてもその折り合いが難しい」といった声がご家族から挙がってきています。
そもそも、脂肪を抑えた食事メニューを考えてみると、「生・蒸す・茹でる・煮る」などの調理法がメインになります。
肉であれば脂質の少ない鶏肉、牛肉だとモモ、ランプ、ヒレ。豚肉だとモモ、肩、ヒレが該当します。
また、食物繊維の多い野菜のレタスなどの葉物、きのこ、海藻類を食事に取り入れることで、脂肪の吸収を抑えることができます。
外食時の注意点としては、カレーライスやお店で食べるラーメン、揚げ物などは脂質が多いので、なるべく控えるようにしましょう。
毎朝測定する体重・体脂肪率も併せて確認するのもいいと思います。
減量中は免疫が下がりやすく、コンディション不良になる傾向があります。
八隅選手は減量中にビタミンCやクエン酸を含むみかんの寒天、ビタミンCを含むグレープフルーツ、ポリフェノールを含むマスカットなどの果物を取り入れていたことが良かったです。
また、ほうれん草、トマト、ピーマンなどの緑黄色野菜も積極的に摂ることができていました。
これらはβカロテンなどの抗酸化物質を含むのでストレスから体を守ってくれる働きがあります。
減量時の食事のポイントとしている食物繊維を多く含む野菜は腸内環境を整えてくれることに加え、免疫にも良い影響を与えてくれます。
【八隅選手の減量中の食事】
【奥村】最後に、試合時の食事に関するポイントについて整理します。
試合当日はその日の体調に合わせて「いつ」「何を」「どれだけ」食べるかを考えていくことが大事です。
レスリング競技の場合、勝ち進んでいけば一日のうちに連戦となるため、試合のタイムスケジュールもよく確認したうえで適切なタイミングで食事をとることが欠かせません。
例えば、計量2時間後に試合がある場合は、消化吸収を考えてエネルギー源となる糖質を多く含む食品をメインに食べることが望ましいです。
昼食後2時間以内に試合を控えている場合も同様です。
また、食べる量についてはお腹がいっぱいにならない程度が良いと思います。
次の試合との間隔が1時間以内の場合は消化吸収の早いエネルギー源となる糖質を多く含む飲料を飲むことが望ましいです。試合当日の食事のポイントは下の図を参考にしてみてください。
<試合当日の食事>
今回、8カ月の栄養サポートを受けて栄養管理の改善点を探った八隅選手と、そのご家族。
今回のサポート期間を振り返り、八隅選手のお母様は「毎日の食事を見直すことができて勉強になった。子どもが高校生にもなると、母親としてサポートできるのはご飯作りくらい。栄養サポートの記録を宝物にして、これからも支えていきたい」と話した。
サポートを行った奥村は「食事記録を拝見し、日々厳しい練習を頑張っている八隅選手にとっても、食事が大きな楽しみになっているのだろうと感じていました。お母様のお食事は八隅選手の食経験としてこれから先も残り、今後も正しく食事を選択する力につながっていくと考えています。」とエールを送った。
そして八隅選手自身もサポート終了後、奥村からのアドバイス内容を実践し、スムーズな減量に成功。
2023年4月のジュニアオリンピック(60kg級)で見事優勝し、同年6月のアジア選手権(キルギス)では3位の成績を収めた。
アジア選手権の際は多くの補食を現地に持参したことで体重も維持できたという。
体重管理というアスリートにとって大きな課題を克服できたことで、これからのパフォーマンスにもさらに磨きがかかっていくことは間違いない。
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