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『コラム』

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ラグプラスノース
2022/09/23

敵であり友でもある活性酸素(ROS)の指揮者

前回は細胞のゴミ掃除(高地トレーニングの効果)として高地トレーニングの第一人者の京都府立医科大学 人工臓器・心臓移植再生医学 五條理志教授にお話をお伺いしました。

今回も五條教授にわかりやすく高地トレーニングを紐解いていただきましょう。

 

ポイント

  1. 活性酸素の主要な産生場所:ミトコンドリア
  2. 活性酸素はアポトーシス:細胞自殺を引き起こす
  3. 一方で、活性酸素はエネルギー産生最適化シグナルである
  4. 抗酸化物質の過剰な摂取は、死を招きかねない
  5. 慢性的運動不足は活性酸素を恒常的に産生し、細胞障害を引き起こす
 

活性酸素は本当に悪者なのか?

太古、酸素は生物にとって毒であった。

酸素は、物質から電子を引き抜く最も強力な原子であり、その物質は酸化されたと言われています。

酸素が不対電子を余分に持つ活性酸素:ROS(以下、ROS)は、より強力な酸化力でタンパク質や核酸を変性させることから、長らく生物にとって有害な物質としてのレッテルが貼られてきました。

ROSが悪者で老化を引き起こし、抗酸化物質がそれをブロックするという仮説が長らく科学界で実しやかに語られてきました。

しかし、今やそれは短絡的な誤った結論であることが明らかとなっています。抗酸化物資の過剰摂取は、いかなる臨床試験でも寿命延長をもたらさず、逆に寿命短縮を示しました。それでも、未だに抗酸化物質信仰の如きものがマーケットを持っていることは、残念なことであります。

敵であり友でもある活性酸素(ROS)の指揮者

ミトコンドリアが活性酸素を産み出す

身体で生じるROSはどこで産生されるのか?その半分がミトコンドリアである。

では、どのようにROSは産生されるのか?エネルギーは電子が移動することを利用して、段階的に取り出されます。

電子は用意された飛び石を駆けるように移動します。生物は、飛び石のメインルート以外に、脇道を用意しました。この脇道への飛び石は遠くに離れていて、その先は行き止まりで、酸素が充満するところと接しています。

電子の流れが遅くなれば、飛び石の上で電子が渋滞を起こし、後からやってきた電子は離れた飛び石の脇道にそれてしまいます。この電子が、酸素に捕捉されてROSを産生するのです。

ROSはエネルギー産生工場の増加という事業の指揮者

「なぜ、生物は精巧に作り上げられた電子の通路にわざわざ分岐点を作ったのか?」「なぜ、酸素の豊富な所に導く脇道を作る必要があったのか?」その答えは、ROSが生物の生存に必須の役割を担っているからに他なりません。

この役割こそが、温度・酸素・栄養・感染といった環境ストレスへの適応のためのシグナルなのです。ストレスが軽いと、ROSはミトコンドリアの中でいくつかの酵素を酸化して(腐敗や不活性化ではない)、ミトコンドリアが内包している遺伝子へのアクセスを容易にします。

それは、エネルギー産生に必要なタンパク質の増産に繋がります。これで解決できないと、更にROSが産生され核に到達し、核が情報を有しているミトコンドリアタンパク質を増産するシグナルを与えます。

こうして、ROSは環境ストレスのエネルギー需要増大や自らの品質不良に対して、エネルギー産生工場の増加という事業の指揮者となります。

敵であり友でもある活性酸素(ROS)の指揮者

しかし、更なるストレスが加わると、ROSはその裏の顔を露わにします。

ミトコンドリアを構成する脂質を酸化・変性させて、その脂質にゆるく結合しているエネルギー産生工場の一員である物質を放出します。

これにより、「電子の移動が途絶」→「エネルギー産生が停止」→「細胞自殺が誘導」という流れになります。こうしてストレスに適応できなかった細胞は跡形もなく消えて無くなるのです。

この欠落が恒常性を維持するための幹細胞に起これば、最終的に組織は緩やかに衰退すること(老化)になります。

このローマ神話のヤヌスが如きROSの二面性は、多くの物質が持つ特性であり、然々は健康に良い・悪いという一面的な見方が、如何に危ういかの良い例でもあります。

過剰な運動負荷は健康に取って良い影響を及ぼす?!

敵であり友でもある活性酸素(ROS)の指揮者

最後に、運動をROSの観点から見てみましょう。

運動はATP需要の増大というシグナルで、ミトコンドリアでの電子の移動速度を増大させます。

例えると、向こう岸まで飛び石をたくさんの人が一目散に渡っている時、脇の飛び石に移る人がいないように、運動時にミトコンドリアの脇道で生じるROSは減少します。

一方、ミトコンドリア外(細胞質と細胞膜)で生じるROS産生は増加し、総量としてのROSは増加します。この一時的なROS増量が核へのシグナルとして働き、ストレス耐性を獲得することとなるのです。

これはホルメーシスという現象の良い例であります。ホルメーシスは、様々なストレスに対する生物の適応反応であり、ストレスフリーもしくは過剰ストレスで適応の破綻が起こり、中等量では適切な耐性を獲得するというU字型反応曲線を示す現象であります。

酸化ストレスへの適応不全としての運動不足は、ミトコンドリアでの電子の流れを渋滞させ、恒常的に(ここが大切)ROSの増加を引き起こし、身体の中で僅かな慢性炎症を引き起こし、生活習慣病や癌の誘因となっている可能性が示されている。

過剰な運動負荷は健康に取って良い影響を及ぼすというデータもあり、運動はホルメーシスモデルに当てはまらないとの論もあるが、基礎生物学の研究成果は高強度運動負荷の負の側面を示し始めています。

一方、間欠的低酸素は電子の最終受容体である酸素の不足を通じて、ミトコンドリアにおける電子の流れを一過性に(ここが違う)渋滞させてROSを増加させます。これが、酸化ストレスに対する耐性をもたらすことになります。

同じ増加でも、持続的と一時的とでは、それからもたらされる事象は正反対となり、コントロールされた適度な運動と間欠的低酸素暴露は、運動強度を上げることができない状態(サルコペニア/フレイル、肥満、怪我、脳梗塞後、心筋梗塞後など)に対して、効果的な健康増進効果の可能性があると考えられます。


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