MENU

『コラム』

投稿サムネイル
Citta
2023/01/27

間欠的低酸素トレーニングと睡眠時無呼吸症候群との根本的な違い(高地トレーニングの効果)

前回は飢餓への備えは万全(高地トレーニングの効果)として高地トレーニングの第一人者の京都府立医科大学 人工臓器・心臓移植再生医学 五條理志教授にお話をお伺いしました。

今回も五條教授にわかりやすく高地トレーニングを紐解いていただきましょう。

 

ポイント

  1. 低酸素暴露は諸刃の剣で、条件により健康を増進することも、損なうこともある
  2. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠時の断続的な窒息から引き起こされる血液の酸性化、二酸化炭素濃度上昇が起こり、認知機能を悪化させ、動脈硬化促進による高血圧、心不全を引き起こす
  3. 間欠的低酸素トレーニング(IHT)は、呼吸を促し、血液のアルカリ化、二酸化炭素濃度減少をもたらす
  4. 活性酸素は、SASでは継続的な増加を示し、炎症・細胞障害を引き起こす。一方、IHTは一過性の上昇を示し、細胞のゴミ掃除に寄与をする
  5. 利用者の体質・体調・運動目的に応じて、低酸素(高地)トレーニング内容を設計することこそが、その効果を決定する肝である
 

低酸素への備え

間欠的低酸素トレーニングと睡眠時無呼吸症候群との根本的な違い
 

酸素という人が生きていく上においてなくてはならないものは、真逆の二面性を持つ物質です。

それが生物の進化を推し進める役割も果たしてきました。

地球規模での酸素濃度の激減は大絶滅の時期と一致し、濃度増加は多様性の増加と一致します。

生物はいかなるストレスに対してよりも、低酸素に対して万全の備えを整えています。

生物は、低酸素に反応して細胞を守る働きを支援するたんぱく質を常に作り続けています。

それも極めて多量に。

そして、常酸素下では酸素を利用して、これらのたんぱく質を常に分解しています。

いかなる生物も、この無駄を維持し続けているという事実は、低酸素ストレスが生物にとっていかに大きいものであるかを如実に示しています。

睡眠時無呼吸症候群とは?

間欠的低酸素トレーニングと睡眠時無呼吸症候群との根本的な違い
 

睡眠時無呼吸症候群という病気は随分と認知されるようになってきました。

睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に舌根が落ちて気道を閉塞に近い状況にしてしまうこと、若しくは、脳からの呼吸の指令がなくなることにより、10秒程度の短い窒息をもたらし、生じた低酸素への反応で覚醒を伴う大きな吸気を起こします。

それを睡眠中、繰り返すことが睡眠時無呼吸症候群の特徴です。

血の中では、二酸化炭素が蓄積して、酸性度が上昇します。

細胞レベルでは活性酸素がたくさん作り続けられます。

この結果、体の外敵に対して防衛を担っている細胞群:免疫担当細胞が、臨戦態勢に入って、疑わしきは罰するとも思える反応で、自己細胞を攻撃してしまいます。

そして、動脈硬化を引き起こし、悪化させ、高血圧を起こし、心臓の筋肉を傷害し、心不全を誘発します。

また、脳細胞への不良たんぱく質の蓄積、ひいては脳細胞死による認知症につながることが示唆されています。

睡眠時無呼吸症候群と低酸素トレーニングの違い

一方、低酸素トレーニングのように低酸素の環境下で覚醒している状態では、呼吸は自然に深く速くなり、窒息とは真逆の状態となります。

加えて、運動を併用することで、呼吸は更に促進することになります。

これが、睡眠時無呼吸症候群とは血液の状態を正反対の状況にします。

呼吸量が増加することで、血液の中の二酸化炭素が排出されることにつながり、血液をアルカリ性に傾けることになります。

低酸素トレーニングでは、活性酸素が一時的には増加しますが、環境がアルカリに傾いていること、運動によるエネルギーが枯渇している状態になっていることで、細胞内のゴミ掃除を促した後、活性酸素は速やかに排除され、細胞は予備能力・適応能力を増し、しなやかに強く生き延びる方向に向かいます。

一方、睡眠時無呼吸症候群では持続的に活性酸素の産生が起こっており、環境が酸性に傾いていることで、活性酸素の細胞障害性をより助長するように働き、細胞は自殺する方向に舵を切ってしまいます。

低酸素暴露という面からは同じ睡眠時無呼吸症候群と低酸素トレーニングは、全く正反対の結果をもたらすことになります。

低酸素トレーニングのプロトコールは、利用者の体質・体調・運動目的に応じた設計を

間欠的低酸素トレーニングと睡眠時無呼吸症候群との根本的な違い
 

ここで注意をしなければならないのは、間欠的低酸素トレーニングの方法です。

どれくらいの濃度で、どれくらいの持続時間、頻度はどうするか?

そして低酸素暴露に加えて運動はどのような強度にするか?他のストレスでの代替は可能か?最適なプロトコールの正解はいまだないのが現状です。

間欠的低酸素トレーニングをお受けになる方のプロフィールに応じて、また、運動能力の向上なのか、ダイエットなのか、未病対策なのか、リハビリテーションなのか、といった目的にも応じて、適切な解は異なってくると考えられます。

間欠的低酸素トレーニングには大きなポテンシャルがあることは明白でありますが、まだまだ進化の途上にある方法です。

一方、睡眠時無呼吸症候群との類似性で間欠的低酸素トレーニングを徒に恐れることはありません。

中等度低酸素(10-15%)の短時間暴露での安全性は、数多くの論文の中で報告されていることであります1。

1.Navarrete-Opazo, A. & Mitchell, G. S. Therapeutic potential of intermittent hypoxia: a matter of dose. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 307, R1181-1197, doi:10.1152/ajpregu.00208.2014 (2014).

次回もお楽しみに。


《Citta協定団体》 (50音順)

《主なCittaパートナーズ一覧》 (50音順)

すべてのパートナーズはこちら>>